01前のイベントが「爆発」した日
まずお聞きしたいのですが、集会所「月虹」を始めたきっかけは何だったのでしょうか。
レインボータイツマン(以下、レインボー)一発目からこれを言っていいのかとすごく思ったんですけど……前のイベントが爆発したからですね。オーナーが失踪しまして。
そんな、ジオン残党みたいな感じでやられてるんですね。
レインボー本当にそんな感じです。前のイベントでお手伝いをしていた関係もあってか、オーナーが失踪するときに、グループの権限もDiscordサーバーのオーナー権限も、全部俺にぶん投げて消えたわけですね。
なるほど。「これはもう俺がやるしかない」と思う瞬間があったと。
レインボーこのまま前のイベントが壊れちゃったら困るなと。そのときにあったコミュニティもありますし、そこを全部取っ払うのは気が引けたので、じゃあ俺が代わりのイベントをやると。それがこのイベントの始まりですね。
始めるまでには、ひと悶着あったんですね。
レインボーあの時はゴタゴタしましたね。本当に。
02準備期間は「2日」
実際にやると決めてから、開くまでにどのくらい用意されたんですか。
レインボー2日ですね。爆発した次の日にワールドを作って、その次の日に開きました。
早いですね。決断が速い。
レインボー爆発してオーナー権限がこっちに移って、グループとDiscordに「こういう理由で爆発したので、俺が代わりのグループを作ります」と。詳しい内情は喋れないところもあるけど、理由を知りたい人も含めて新しいグループに移ってくれと。「明日には開くから、聞きたい奴は俺のところに来い」と言いました。
Unityをいじってアップロードして、というのも正直めんどくさいじゃないですか。誰かに背中を押された部分もあったのでは。
レインボーいや、あった記憶はないな。ただ、みんなが「今まで仲良くしてきたこのコミュニティがなくなると困る」と言っていたから、じゃあ俺やるよ、と。学級委員長が決まらないから手を挙げました、くらいの感じですね。
03大切にしているのは、ただ「雰囲気」
このイベントで大切にしているものは何ですか。
レインボーもう雰囲気ですね。それ以外ないです。みんなが自由に喋って、新しい人が入ってきたらみんなが迎えて。派手なアバターを使ったり画面ジャックがあったりという、ちょっと言い方は悪いですが下品な感じのものは、うちには一切いらないと。俺自身そういうのが嫌いなわけではないですけど、ただただみんなが安心しておしゃべりできる場所を作れればいいなと思っています。
ワールドを作るうえでのこだわりは。
レインボー一番こだわったのは、話しやすい空間ですね。どんな場所でも話せるとは思うんですけど、話の種になる食べ物だったり、遊べるギミックだったり。おしゃべりが苦手な人でも、ギミックで遊んでいたら「それいいよね」と会話が生まれる。落ち着ける空間と、もろもろ遊べるものを置いていこうという感じで作っています。
途中で「ここはこうすればよかった」と気づいたことも?
レインボー多々ありましたよ。でも、もともといた常連さんや新しく来てくれた人の「こういうのがあると嬉しい」を積極的に取り入れています。手動で作ってはいますけど、ある程度みんなで作っていってくれればいいなという形で。
04「毎日空いている」ことと、姿を問わないこと
他のイベントにはない、月虹さんならではの強みは。
レインボーまず毎日空いていること。他にも毎日やっているところはありますが、毎日やるとオーナーやキャストの負担が大きいので数は少ない。しかもAndroid対応もしているとなると、さらに少なくなる。Quest単体やスマホの人、初心者の人もちょこちょこ来てくれます。
レインボーもう一つは、うちは人間がそんなにいないんですよ。VRChatの雑談イベントって、バーでも喫茶店でも、イケメンや美女が揃っているところが多いのかなと。うちは種族を問わず、みんなが好きな姿で好きに喋っている。パブリックアバターの動物や、ちょっと人外のアバターの人がいても浮かない。そこがいいところじゃないかなと思っています。
わかります。日本のVRChatだと、かわいい美少女や超イケメンのアバターの方が多くて、入りづらい経験はありました。僕自身、VRChatにのめり込んだ原因が、月虹さんのようなコミュニティに参加できたことだったので。
05「月虹」という名前の由来
お名前の由来はあるんですか。
レインボー勢いですね。まず「集会所」にしたかったのは、バーや喫茶店みたいに「何かをする場所」に固定したくなかったからです。バーだとお酒を飲みに来る場所、喫茶店だと多少の接客がいる形になる。そういう「何かをお出しして」という雰囲気にしないように集会所と付けました。
レインボー「月虹」に関しては、単純に俺の名前がレインボータイツマンなので……単純に俺が月が好きだっただけです。
やっぱりそうだったんですね。このワールド、向こうに見える月が本当に綺麗なんですよ。
06トラブルが「不思議とない」理由
1年半やっていると、人が増えるぶんトラブルも起きそうなものですが。
レインボー不思議とないんですよね、うち。
僕も何度かお邪魔していますが、言葉遣いが多少悪い僕でも受け入れてくれる、懐の深いイベントさんなんですよ。
レインボーもともとの常連……後ろにいる連中がちゃんとやってくれているのは、全然ありますよ。俺一人だとどこかで何かしら起きるでしょうけど。うち、キャストって存在しないんですけど、あの人たち、頼まずとも勝手にキャストみたいなことをしてくれるんで。
07「最終的にあそこに行けばいい」という安心感
来てくれた方で、印象に残っているエピソードはありますか。
レインボーうちに居ついてくれる人って、初心者の頃から来ていて、うち経由でVRChatに慣れていく人が多いんですよ。慣れてくると他のイベントやコミュニティにも顔を出すようになって、うちに来る量はどんどん減っていく。それでも2、3ヶ月に1回、半年に1回は顔を出してくれて、「新しいところでキャストになりました」「主催をやることになりました」という話を聞かせてくれる。
レインボーそういう人に、「ソーシャル欄を毎日22時に見ると絶対に空いてる。VRChatで何かやらかして困っても、最終的にあそこに行けばいいんだという安心感がある」と言われたのは、うれしかったですね。
帰る場所って、どんなゲームにもどんな社会にも必要ですよね。
レインボーあと、最初はコミュニケーションが難しかった初心者さんが、「フレンドいいですか」と誰かと繋がって、うちに来ていない間はその常連さんのインスタンスに行っていたりする。そういうのがチラチラ見えるので、ちゃんとフレンドを作れたんだなと思いながら、ほぼ見守っている感じです。
08変わらないことが、強み
今後やってみたい新しい試みはありますか。
レインボー現状あんまりなくてですね。うちは毎日開いて雑談しているだけといえばそれだけですけど、半年に一度くらいグループ内で大きいゲーム大会を開いたり、年始はビンゴ大会で先着5人にお年玉としてVRChat+をあげたり。そういうプチイベントはグループ内で完結してやれるので、「こういうのをやりたい」という欲はそっちで補えちゃっているんです。
それでいいと思います。変わらずあり続けることが大事ですよね。海が明日からぶどうジュースになったら、みんな困りますもんね。
09これからイベントを始める人へ
これからVRChatでイベントを始めたい人へ、アドバイスはありますか。
レインボーうちにはイベントオーナーさんやキャストさんも遊びに来てくれるので、苦労話を聞くことが多いんですよ。そのうえですごく思うのは、オーナーはしっかり情報をキャストに流したほうがいいということ。考えていることや「こうしていきたい」を、オーナーと副主催みたいな一番近い人だけが握っていて、キャストには突然降ってきて困る、という話をよく聞くので。情報共有はしっかりしたほうがいい。
レインボーもう一つは、最初に決めた「やっちゃいけないこと」を、オーナーが厳格に守ること。うちなら大きいパーティクル系や音を出すギミックは控えてくれ、版権アバターはNGだよ、とか。接客型のところならセクハラNGだったり。
レインボー危うくなっていたイベントさんの話で、お客さんがルール違反をしたので主催に相談したのに、「まあまあええやん」で取り持ってくれなかった、注意もしてくれなかった、というのを聞いたことがあって。一回注意したからええやろという態度になると、キャストが主催を信じられなくなる。それってお客さんにも伝播すると思うんですよ。「ダメと言われてたはずなのに、あの人はやってるけどいいのか」と。
レインボーお客さんを守るためでもあり、キャストを守るためでもある。自分で決めたグループルールは、厳格に「これはダメだ」と。言うことを聞かないならもう退店してもらいます、くらいの強い意志を持ってやってほしいなと思っています。
伝えるべきことは伝える、決めたことは守る。小学校で習ったとおりですね。
レインボー「あそこの主催、頼りないからもう嫌だ」という声も聞こえてくるので。
10最後に —— どんな場所にしていきたいか
このイベントを通じて、来てくれる皆さんにどんなものを持ち帰ってほしいですか。
レインボーうちに来たなら、何かしら人との関わりを持っていってほしいなというのはあります。ただ、無言勢の方や、話すのは苦手だけどみんながワイワイしているところが好き、という人もいっぱい来るので。
レインボー「今日どのイベントに行こう」と困ったら、チラッとうちに来てくれれば、誰かしら「ここがいいよ」「このイベントいいよ」と教えてくれるし、「無理に喋りたくなかったら喋らなくていいよ」ときっと優しくしてくれる。そういう、困った人が寄れるイベントにしていきたいなと思っています。
取材を終えて焚き火のそばに戻ると、常連さんたちの雑談はもう再開していた。「頼まずとも勝手にキャストみたいなことをしてくれる」という言葉が、目の前でそのまま証明されているようだった。
レインボータイツマンさんは、自分の功績をほとんど語らなかった。前のイベントの崩壊から2日で場を立ち上げ、1年半、一日も欠かさず扉を開け続けている。それでも本人は「学級委員長が決まらないから手を挙げただけ」と言う。毎日22時、ソーシャル欄に必ずその名前がある。それは機能ではなく、ひとつの約束なのだと思う。どんなときも変わらずそこに寄れる場所があるということの価値は、おそらく一度でもその灯りに助けられた人にしかわからない。